度肝を抜くルックの仕掛け人、ブレット・アラン・ネルソンの存在
「ドージャ、今日のこのルックについて教えて」
「ニャー」
「誰がこの服を作ったの?」
「ニャー」
「初めてのメットガラですか?」
「ニャー」
2023年のメットガラに登場し、インフルエンサーのエマ・チェンバレンの問いかけに終始「ニャー」の一言のみで答えたドージャ・キャット。猫耳とフェザーに、なんと5000時間もかけてあしらわれた35万個ものシルバーとホワイトのビーズが散りばめたオスカー デ ラ レンタ(OSCAR DE LA RENTA)のフードガウンに身を包んだ彼女が扮したのは、デザイナーの故カール・ラガーフェルドの愛猫シュペットだ。
そんな彼女は、スキャパレリ(SCHIAPARELLI)の2023年春夏オートクチュールショーに3万個もの赤いクリスタルがあしらわれた赤いガウンに身を包んで登場。
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さらに、2023年1月にパリで開催された2023年春夏オートチュールコレクションでは、ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)が手がけた仕立ての良いオーバーサイズスーツにヒゲと眉がユニークなメイクを合わせるなど、彼女のファッションは常に型破りで時に笑いを誘うようなオリジナリティ溢れるルックばかりだ。
2018年、鼻にフライドポテトを詰め込んだ彼女が大きな話題となったMV「Mooo!」を皮切りに、一連のセンセーショナルなスタイルを仕掛けたのが、クリエイティブ・ディレクター兼スタイリストのブレット・アラン・ネルソンだ。
「ヴィクター&ロルフのショーの時のルックは、ネットのアンチに対する彼女からの回答でもありました。当日の服について話していたら、彼女が突然“口ひげを生やそうかな”と冗談のように言い出したのです。だから私は“よし、やるんだったらどこまでもやろう。おかしな眉毛も顎鬚も生やして、とにかくアンチがどんな反応をするのか見てやろう”と。あのルックには“私はあなたを見ているけれど、全く気にしていない”というメッセージが込められているのです」
ブレットは、これまでフォトグラファーのデイヴィッド・ラシャペルやニッキー・ミナージュ、そしてマイリー・サイラスらと数々のプレイフルなスタイルを仕掛けてきた。
「ドージャは私に会うまで、スタイリストと仕事をしたことがなかったそうです。初めて会ってからすぐに彼女は私を自身の世界の中に受け入れてくれて、その一部になることを許してくれた。とにかく遊び心があって、何に対しても前向きで、ルックや自己表現に関して確固たる信念がある。彼女は私をとても信頼してくれてなんでも自由にさせてくれるから、彼女とのコラボレーションはいつも楽しくて仕方がないのです」
ヘアスタイルに強烈なメッセージを込めて
「人のことをあれこれ言ってばかりいるビッチたち!これなら何も私に言えないでしょう?だから私のことはほっといて!チャオ」
2023年2月にインスタグラムから痛烈なメッセージを送ったドージャは、プラチナブロンドのショートヘアを公開し、ファンを騒然とさせた。だが、それ以前の2022年には「スキンヘッドにするまでこんなに時間がかかるなんて、想像もしていなかった」と、インスタグラムライブで眉と髪を剃り落とす姿を公開。
「髪の毛が嫌い。とにかくあること自体が嫌い。生まれた時から。一体髪の毛は何のためにあると言うの」と本音を語る彼女は、これまでウィッグでイメージチェンジを図ってきたが、最新ルックは彼女御用達のサロンのJStayReadyと作り上げたものだ。
「ワークアウトより以前に、スタイルやルックを重視しています。髪や眉を剃った私に、“どうしたの?”と心配してくれるファンの皆さん、私はいたって元気です。そして、大丈夫」と、突発的に髪を剃った彼女に対するファンの心配をよそに、どこまでも突き抜けたそのビューティーは、彼女の魅力の一つでもある。
胸の手術と脂肪除去を行ったことを報告
そんな彼女は、2023年3月にツイッターで胸と脂肪除去の手術を受けたことを報告し、またもファンを驚かせた。しかし当人はいたって平然と「今、私の胸はリフトアップされていて、上向きになりました。大きくしたくなかったから、一番小さいものを入れてもらって満足しています」と、3ヶ月の自宅療養期間を経て、その“仕上がり”に満足していることを『Interview』誌に明かした。
クリエイションの核はADHD
「“HEllMoUth”でもないし、“First of All”かな。そう、今アルバムのタイトルを発表しようと思っています」
2021年のアルバム『Planet Her』に続くセカンドアルバムのタイトルを一時ツイッターから発表したドージャだったが、そのツイートをすぐに削除。しかし6日後には「笑。やっぱり、私のアルバム名は”First of All”ではないので変えます」とツイートしたがそれも削除した。これまでも彼女は、SNSで大掛かりな企画を立てては半ば本気で実行すると宣言してきたが、こうした言動や削除と投稿を繰り返す行為は、決してマーケティング目的ではない。彼女はこれを“優柔不断で、クラウドソーシング(=自分の頭の中)に溜まったアイデアを決められない”と表現し、自身の言動は“流動的”であるとしている。
「自分がADHDであることを世間にさらけ出しているようなもの。アルバムタイトルも当初は“Hellmouth”だと閃いたのだけど、やめました。私はなんでも土壇場でひっくり返すのが得意だから」
そう語った彼女は、2021年『Rolling Stone』誌にADHDと診断されたことを初めて公表した。「私はひとつの場所でもがいているのに、他の人たちはどんどん先に行ってしまって置いてきぼりにされているような気がした」と、その苦しい胸中を告白。さらに、高校中退後は音楽を人生の最優先事項とし、オリジナリティとクリエイションを追求してきたが、メンタルヘルスに支障を来し、「外出が怖くて、とにかく部屋から出るのが嫌だった。だから、外に少し出るためにだけ家から出る、という時期が続いたこともあります」と、広場恐怖症と闘っていることも明かした。ちなみに広場恐怖症とは、パニックを引き起こすかもしれない状況への恐怖に起因する不安障害の一つだ。
ADHDと広場恐怖症と闘いながら、世界的スーパースターへと駆け上がったドージャ。そんな彼女は、今日も全世界のオーディエンスを前にパフォーマンスを続けている。
SNS時代のスーパースター
「インターネットとともに成長してきた私は、常に人々と繋がってきました。まるで中毒のようにネットの世界にのめり込んでいたこともあります。おそらく今のアーティストの大多数もそうだと思いますが、インターネットは私のキャリアの一部になっているのです」
2023年、『Time』誌にこう明かした彼女は、“現代のミュージシャンの成功=SNS上での成功”であることを熟知していたことから、常に型破りなメイクアップとルックを刷新し、注目を集めてきた。
「私はとても衝動的です。オーディエンスにとっては、ある種のパフォーマンスにも見えるのでしょう。そんな私を見た彼らの反応には、私も楽しませてもらっています。SNSは私の活動の大部分を占めていますから、何をどのように発信するかをコントロールすることは、アーティストとしての私の生命線でもあります。上達するにはとにかく失敗を重ねるしかない。時には一歩後退したり、嫌な気分になることもありますが、それ以外の正攻法を見出す手段は今のところないのです」
セルフプロデュースについてこう語る彼女はまた一方で、自身を“引きこもり”と称し、インスタグラムから様々なインスピレーションを得ていることも明かした。
16歳で高校を中退し、床に敷いたマットレスの上に毛布を敷いて座りながらラップする動画をアップロードし続け、「少人数だったけどファングループできたので、それをずっと大切にしていました。毎日ライブで彼らと音楽を作ったり。そこから“爆発”したと言う感じですね」と、ブレイクまでの道のりをこう振り返るドージャ。
2023年5月に『Time』誌のカバーを飾り、同誌の“世界で最も影響力のある100人”にも選出された彼女は、自身のクリエイションのターニングポイントについてこう語った。
「髪を剃ってから、これまでにない“自分らしさ”と、まるで15歳の自分に若返ったようなフレッシュさを感じました。同時に、ありのままの自分を丸ごと受け入れ、他人の目を気にすることなく本来の自分をすんなり押し出せるようになったと感じたのです。言い換えれば、“自分の殻を破った”ような──だから、あの時思い切って剃ってみて良かったと思っています。今は、これまでよりずっと幸せな気分なのですから」
Photos: Getty Images Text: Masami Yokoyama Editor: Mayumi Numao
